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2025.12.17

令和7年度補正予算の賃上げ支援を読み解く ― リハビリテーション専門職への影響 ―



12月16日、政府の経済対策の財源となる「令和7年度補正予算案」が、参議院本会議において可決、成立しました。約18.3兆円もの規模で、近年の補正予算の中でも大きなものとなっています。

なかでも、厚生労働省所管の予算は2兆3,252億円にのぼり、多くの医療・介護等の現場を支援するための予算が組まれています。

特に理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)といったリハビリテーション専門職にとって、今回の補正予算案で特に関心が高いのは「賃上げ支援」です。

これまで、「リハビリテーションを考える議員連盟」や「予算・税制等に関する政策懇談会」の場においてリハビリテーション専門職の賃上げや処遇改善を求める要望・決議が継続的に行われてきました。

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今回の補正予算は、こうした要望の積み重ねが、政策的な検討課題の一つとして反映された結果の一端と位置づけることができます。

賃上げ支援については、勤務先が「医療機関(病院・クリニック)」か、「介護事業所(老健・デイケア・訪問リハビリテーション等)」か、「障害福祉サービス事業所」かによって支援の形が異なりますので、分野ごとに整理して解説します。


賃上げに対する支援(給与への影響)

最も関心が高いと思われる給与面については、医療・介護・障害福祉の全分野で支援策が盛り込まれました。ただし、支給スキームが異なります。

医療機関勤務の方(病院・診療所・訪問看護ステーションなど)

医療分野では、施設に対して「定額」の支援金が交付され、それを原資に賃上げや物価高騰対策を行う仕組みです。

「医療機関・薬局における賃上げ・物価上昇に対する支援」として、国から都道府県を通じて、医療機関へ一時金が交付されます(病院に対しては国からの直接執行を予定)。

この資金は「医療従事者の処遇改善」と「物価高騰対応」に使われることが目的とされています。各施設ごとの規模感(目安)は以下のとおりです。

・病院:1床あたり19.5万円(賃金分8.4万円+物価分11.1万円)
    ※物価対策分については、全麻手術件数、分娩取扱数、救急車受入件数などによる加算あり。
    ※別途、病床数適正化支援、重点支援地方交付金による支援などあり。
・診療所(有床):1床あたり8.5万円(賃金分7.2万円+物価分1.3万円)
・診療所(無床):1施設あたり32.0万円(賃金分15.0万円+物価分17.0万円)
・訪問看護ステーション:1施設あたり賃金分22.8万円

これらは施設・事業所全体への交付金であるため、個人の給与が自動的に月額いくら上がるというものではなく、各病院・クリニックの経営判断で配分されます。

一方、政府は「物価を上回る賃上げの実現に向けた支援」と明記しており、春闘や定期昇給に向けた原資として活用されることが期待されています。




介護事業所勤務の方(老健・特養・通所リハ・訪問リハなど)

介護分野では、具体的な月額アップを念頭に置いた補助金が出ます。「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善に対する支援」として、令和7年12月~令和8年5月(6か月間)を対象期間とした以下の支援が予定されています。

・基本:介護従事者に対して幅広く月額1万円相当の賃上げ支援
・上乗せ:生産性向上や協働化に取り組む事業者の場合、さらに介護職員あたり月額0.5万円の上乗せ
・職場環境改善:さらに介護職員あたり月額0.4万円相当の支援(人件費に充当可能)

資料上は「介護従事者に対して幅広く」との表現が用いられており、訪問リハビリテーション等に従事するリハビリテーション専門職も対象となる可能性があります。

ただし、実際の支給対象や配分方法は、今後の通知や各事業所の判断によって異なります。実際に申請するかも含めて、事業所判断となる点に留意が必要です。

「上乗せ」、「職場環境改善」については処遇改善加算の対象サービスが基本になっています。介護職員への賃上げが念頭にある表記となっていることから、リハビリテーション専門職への影響は限定的と考えられます。


障害福祉サービス事業所勤務の方(放課後等デイ・就労支援・入所施設など)

介護分野と同様のスキームで、「障害福祉分野における賃上げに対する支援」として令和7年12月~令和8年5月(6か月間)を対象期間とした以下の支援が予定されています。

児童発達支援や放課後等デイサービスなどで働くリハビリテーション専門職も、制度上は「障害福祉従事者」に含まれる可能性がありますが、具体的な取扱いは今後の通知等での確認が必要です。

・金額:障害福祉従事者に対して幅広く月額1万円相当の賃上げ支援


業務負担軽減・働きやすさへの支援(ICT・DX)

賃上げ支援に関する項目以外では、現場のセラピストにとって負担の大きい「記録業務」や「情報共有」の効率化に向けた設備投資補助も計上されています。医療・介護・障害福祉の合計で426億円にも及ぶ規模で予算化されています。

医療分野(電子カルテ・情報共有)

生産性向上に資するべく、スマートフォンによるカルテ閲覧、インカム、インタラクティブホワイトボード等の導入支援(1病院あたり上限1億円)が含まれています。

これにより、病棟回診や多職種連携時の情報共有がスムーズになることが期待されます。

介護・障害福祉分野(テクノロジー導入)

介護テクノロジーの導入支援として、見守り機器、介護記録ソフト、インカムなどの導入費用が補助されます。

特に「介護記録ソフト」や「インカム」は、リハビリテーション実施記録の入力効率化や、ケアスタッフとの連携強化に直結するため、現場のリハビリテーション専門職にとっても、業務効率化につながる可能性があります。

障害福祉現場においても、ロボットやICT機器(タブレット端末、記録ソフト等)の導入支援が行われ、業務効率化が推進されます。


訪問系サービスへの支援費も計上

本予算では、介護事業所等に対するサービス継続支援事業として、訪問系サービスにおける移動経費や熱中症対策備品、介護施設・事業所の災害時用の設備・備品購入支援などが盛り込まれました。

これらは、訪問リハビリテーションに従事する方の安全確保や活動環境の改善に活用される見込みです。


賃上げ支援の実施に向けて

現場の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の方にとって重要な賃上げについて、令和7年度補正予算で盛り込まれました。

医療分野では、施設への交付金を通じて、間接的に給与是正が期待されます。なお、これらは国から事業所等に交付される補助金であり、個々の職員に一律で支給されるものではありません。

また、介護・障害福祉分野では月額1万円程度(条件により上乗せあり)を原資とした一時的な賃上げ支援が令和7年12月から始まります。

勤務先がこれらの補助金を申請・活用することが必要となりますので、職場の管理者や法人本部の方針を注視しておく必要があるともいえます。

引用・参考
令和7年度厚生労働省補正予算案の概要(厚生労働省HP)

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