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2026.09.01

【インタビュー|後編】「病気にさせない」社会へ、運動・スポーツと理学療法士に期待される役割|鈴木大地氏



競技者、大学教員・研究者、日本水泳連盟会長、初代スポーツ庁長官を経て、現在は参議院議員として活動する鈴木大地氏。

前編では、競技者としての身体との向き合い方や、競技団体、スポーツ行政の立場で実現してきたこと、そしてスポーツによる健康増進を全国的な仕組みにできなかったことが、政治へ進んだ理由の一つであるとお話を伺いました。

【インタビュー|前編】競技者からスポーツ庁、そして政治へ。鈴木大地氏が「やり残したこと」

2026.08.31

後編では、理学療法士としてスポーツ現場や地域活動にたずさわる渡邊祐介さんが引き続きインタビュアーとして、「病気にさせない」ための健康政策について聞きます。

幼児期から高齢期まで身体を動かせる環境をどうつくるのか。障害のある人や身体に不安を抱える人が、自分に合った運動に参加するためには何が必要なのか。そして、医療と地域の間で、理学療法士をはじめとする専門職にどのような役割が期待されているのか。

鈴木氏の政策的な視点と、渡邊さんが地域で積み重ねてきた実践を通して、運動・スポーツを健康や社会参加へつなげるための課題を考えます。


病気になってから治すだけではない

――政治の場で、運動やスポーツを通じて、どのような社会課題に取り組みたいと考えていますか。


鈴木氏:
簡単にいえば、スポーツを普及・振興することによって、健康な社会をつくりたいということだと思います。

病気になった後には、医師に診ていただき、薬を飲み、必要であれば手術を受けます。日本の医療は、世界的に見ても非常に高い水準にあると思います。

ただ、一番大切なのは、病気にさせないことではないでしょうか。予防医療という考え方です。

その点では、スポーツや運動が大いに役立つのではないかと考えています。




医療の中で「運動」を勧められる仕組みを

――運動を予防や健康づくりにつなげるために、どのような制度が必要でしょうか。


鈴木氏:
医師が薬を出す代わりに、「運動してください」と勧めてくれるような仕組みによってみんなが健康的に幸せになるようなことが、もっと広がるとよいと思います。

ただ、現在の仕組みでは、薬を出すことは医療機関の収入につながっても、「運動してください」と助言することが、同じようには評価されにくい面があります。

医師が運動を勧めることも、医療の中で適切に評価される制度や仕組みができれば、患者さんにも医療者にも、社会全体にもよいのではないでしょうか。


幼児期に、体を動かす習慣をつくる

鈴木氏が特に重視する対象の一つが、幼児期の子どもです。

――健康づくりやスポーツ政策の中で、特に重視している年代や領域はありますか。


鈴木氏:
一つは幼児期です。

幼児期にスポーツや運動、身体づくりに取り組むと、生活の中に身体を動かす習慣がつきます。

スポーツが得意か不得意か、好きか嫌いかということとは別に、とりあえず身体を動かすことがある程度できる状態をつくることが大切です。

教育経済学的にも、幼児期に教育することが一番効率がよいと言われています。

そのような取り組みが、将来、運動をしない人を減らすことにもつながると思います。

――幼児期に身体を動かす環境を、政策としてどのように整えていきたいと考えていますか。


鈴木氏:
スポーツ庁長官時代には、アクティブ・チャイルド・プログラムというプログラムを導入し、日本スポーツ協会を通じて、幼稚園などに講師を派遣する取り組みを行いました。

すべての園で一度に実施することは難しいため、まずモデルとなる取り組みをつくり、それを参考に広げてもらおうとしました。

保育園などでは、十分な運動スペースがない場合もあります。特に都市部では難しい面もありますが、近くの公園へ出かけるなど、子どもたちが外で身体を動かせる機会を増やすことが大切です。

幼児期の身体活動は重要ですので、もっと全国に展開していかなければならないと思っています。


高齢期まで、自分の足で歩き続ける

鈴木氏がもう一つ重視するのが、高齢期の運動です。

鈴木氏:
これまであまりスポーツや運動をしてこなかった高齢の方にも、これからの人生を考えて、身体を動かしていただきたいと思います。

小さな段差につまずいて転倒し、骨折をきっかけに介護が必要になるという流れではなく、いつまでも自分の足で歩ける方が増えることが大切です。

自分の足で歩けることは、ウェルビーイングやQOLを高めることにもつながります。自分で近くへ出かけられることは、本人だけでなく、周囲の人にとっても大きな意味があります。




一人ひとりに合った、楽しく続けられるスポーツを

――障がいのある方や身体に不安のある方が、自分に合った運動に参加するためには、どのような環境が必要でしょうか。


鈴木氏:
障がいの状態は、人それぞれです。同じ症状の方ばかりではありません。

そのため、本人も周囲も含めて、その人にとって何がよいのかを一緒に考えていくことが大切だと思います。

特別支援学校などを一つのプラットフォームとして、それぞれの子どもに向き合い、何ができるのか、どのような活動がよいのかを考えていく方法もあるのではないでしょうか。

――地域で運動やスポーツを継続するためには「安全」「楽しさ」などさまざまな要素が必要になります。特に何が大切だとお考えですか。


鈴木氏:
失敗しただけで怒られたり、体罰を受けたりすれば、子どもはスポーツが嫌になってしまいます。また、そのような経験をしてきた子たちは、自分が大人になった時に同様の指導を繰り返してしまうこともあります。

そのような観点からも、コンプライアンスやガバナンスの整備には取り組んできました。

規律や礼儀は大切ですが、行き過ぎた指導ではなく、「楽しむためにスポーツをする」、「スポーツは楽しい」という考え方が、子どもだけでなく、すべての世代で感じられれば継続につながるのではないでしょうか。


地域の人材と専門職を、どうつなぐか


渡邊さん:
私自身も理学療法士として現場で関わる中で、運動やスポーツを地域の中で継続的に支えるには、多様な人材をつなぐ仕組みが必要と感じています。

行政、スポーツ団体、地域住民、医療・介護専門職の連携について、どのように考えていますか。

鈴木氏:
全国には、自治体などから任命されたスポーツ推進委員が数多くいます。

スポーツ庁長官時代にも、この方々を地域のスポーツ振興にもっと生かしたいと考えていました。

ただ、自治体によって温度差があり、十分に進まなかった面もあります。

スポーツ推進委員のような方々がコーディネーターとなり、地域の人や団体、専門職をつないでいく役割を担えるとよいと思います。


地域の実践を、ほかの地域へ


渡邊さん:
私は、杉並区で、障害の有無にかかわらず運動を楽しめる「ユニバーサルタイム」の活動に携わっています。

体育館やグラウンドに理学療法士が参加し、スポーツ推進委員などと協力しながら、準備体操やストレッチ、運動の支援を行っています。

こうした地域の活動において、理学療法士に期待することはありますか。

鈴木氏:
今のお話は、とてもよい取り組みだと思います。まさに、そうした活動を期待しています。

理学療法士の皆さんは、身体の動きや機能について専門的な知識を持っています。その知識を生かして、身近な地域のスポーツ活動に寄り添っていただければ、けがを予防しながら、楽しく運動を続けられるのではないでしょうか。

それはどういう時に活動されているのですか?

渡邊さん:
杉並区に関して言いますと、年間トータル20回くらいでしょうか。私も含め、理学療法士が毎回3〜4名参加し、ストレッチ・準備体操から入って一緒に走ったりしています。

きっかけは、杉並区のスポーツ推進課からお声がけをいただいたことです。もともと障害のある方のリハビリで理学療法士が関わっているため、運動する時に理学療法士がいると安心なので、手伝っていただけないか、といったお話でした。

鈴木氏:
杉並区といえば、スポーツ庁長官時代に、杉並区立松溪中学校というところに部活の外部指導員の視察に行きました。外部指導員として、テニスの専門の指導者を取り入れると半年で区のチャンピオンになり、一年経ったら都大会の上位に食い込んだ、といった話でした。区役所や区内スポーツ団体、当事者で構成するネットワーク会議に理学療法士も参加し、当事者の視点に立った企画・運営を行っています。

杉並区で行われているような取り組みを、一つのモデルとして、ほかの地域にも広げていけるとよいと思います。

理学療法士だけでなく、作業療法士などの専門職や、地域のスポーツ推進委員とも連携しながら進めていくことが大切ではないでしょうか。




水中運動が持つ可能性

鈴木氏は、大学教員・研究者として、地域住民のライフスタイルや水中運動についても研究されてきました。

――研究者としての経験は、現在の政策への考えにどのようにつながっていますか。


鈴木氏:
水中運動についても研究してきました。

車いすを利用する方や障害のある方も、水の中に入ると、同じ環境で運動することができます。ある方が「水の中で初めて自由を感じた」と話したこともありました。

陸上では歩くことが難しい方でも、水中では浮力によって歩けることがあります。転倒しにくい環境でもあります。

水中での体力づくりや歩行練習が、日常生活を取り戻すことや社会復帰につながる可能性があると考え、基礎的な研究に取り組みました。


リハビリから、新しい生活へつなぐ

――最後に、理学療法士をはじめとするリハビリテーション専門職へ、期待することをお聞かせください。


鈴木氏:
生まれつき障害のある方もいれば、事故などによって後天的に障害を負う方もいます。

突然障害を負った方は、絶望や悲しみ、怒りなど、さまざまな感情を抱えると思います。

理学療法士などの皆さんは、リハビリテーションの過程で、そうした方々と関わる機会が多いでしょう。そのときに、障害者スポーツやパラリンピックなど、新しい世界があることを伝えていただきたいと思います。

障害を負った方が、新しい世界で再び輝けるように、声をかけ、支え、一緒に楽しい未来や人生をつくっていく。リハビリテーション専門職は、そのように寄り添える存在だと思っています。



身体機能の回復だけでなく、その先にある生活や社会参加へどうつなぐか。

鈴木氏の言葉は、理学療法士が持つ身体と運動の専門性を、医療の中だけでなく、予防、地域生活、社会参加へ生かす可能性を示しています。

話し手


鈴木 大地 氏
1988年ソウルオリンピックの競泳男子100メートル背泳ぎで金メダルを獲得。初代スポーツ庁長官を務め、現在は参議院議員(東京都選挙区)として活動している。

日本水泳連盟会長、日本オリンピアンズ協会会長などを歴任。競技者、研究者、競技団体の代表、スポーツ行政の責任者を経て政治の道へ進み、スポーツを通じた社会課題の解決に取り組んでいる。

聞き手


渡邊 祐介 氏
理学療法士。東京脊椎クリニックに勤務し、東京都理学療法士協会スポーツ局では、子どもの健康・安全部の部長を務める。

スポーツ現場での活動に加え、杉並区の「ユニバーサルタイム」など、障害の有無にかかわらず地域で運動・スポーツを楽しめる環境づくりにも携わっている。

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2026.08.31
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