「理学療法学教育モデル・コア・カリキュラム」の令和8年度改訂版が公表されました。
今回の改訂は、超高齢化や医療DXが進む2040年以降の社会を見据え、単なる知識の暗記にとどまらない「卒前段階での標準的な臨床遂行能力の確実な担保」を意識した内容となっています。
本記事では、旧版(平成31年版)からの主要な変更点をまとめました。
「他職種共通の能力基準への再編」「AI・デジタル活用とチーム医療の強化」「全国共通と学校独自の強みの明確化」「実務重視の評価方法」という、現場の指導者が押さえておきたい4つのポイントを分かりやすく解説します。
そもそもモデル・コア・カリキュラムとは?
モデル・コア・カリキュラムとは、全国の理学療法士養成校で学ぶべき「学修目標の共通基準」です。
教育の質保証を目的に2019年に誕生し、今回の令和8年度改訂では社会情勢や医療ニーズの変化を踏まえて刷新されました。
全体の約7割を全国共通のコア領域、約3割を学校独自の自由領域とすることで、全国一律の質保証と各学校の特色ある教育を両立させる仕組みになっています。
なお、教育の方針を示す「卒前教育ガイドライン」という別文書もあり、今回のコアカリキュラムと“両輪”で活用することが想定されています。
ガイドラインの概要や背景については、こちらの解説記事もご覧ください。
『理学療法学教育モデル・コア・カリキュラム』4つの変更点
今回の改訂において、養成校の教員や臨床実習指導者が特に押さえておきたい主な変更点は4つあります。
従来のカリキュラムから大きく変更されたポイントを順に紹介します。
・科目分類から他職種共通の「10の資質・能力」へ再編
・「AI・デジタル活用」や「チーム医療」を独立大項目化
・「7割コア+3割自由設計」のもと、科目の柔軟な設計が可能に
・「知っているか」から「実際にできるか」を測る評価へ
科目分類から他職種共通の「10の資質・能力」へ再編
改訂版における最大のポイントは、従来の「基礎医学」や「理学療法専門科目」といった分類を見直し、医療系他職種(医・歯・薬)と共通する「10の資質・能力」を軸とした構成へ変更された点です。
本コアカリキュラムの本文中では、改訂のねらいについて次のように記述されています。
「医療系各職種との共通言語化と相互運用性が高まり、チーム医療・地域包括ケアシステムにおける教育連携が一層円滑となる」
新旧の分類体系の比較は以下の通りです。
この再編により、養成校の段階から他職種と共通の視点が養われ、臨床現場での円滑なチームビルディングや多職種協働につながると期待されています。
「AI・デジタル活用」や「チーム医療」を独立大項目化
2040年以降の超高齢化やデジタル技術の進展に対応するため、「情報・科学技術を活かす能力(IT)」や「多職種連携能力(IP)」が独立した項目として強化されました。
多疾患併存や在宅医療の拡大、遠隔支援ツールの普及など、リハビリテーションを取りまく環境の変化へ即応できる人材育成が必要とされているためです。
主な新設・強化領域は以下の通りです。
● 情報・科学技術を活かす能力(IT)の独立
データやAIの臨床・研究応用、遠隔支援ツール、情報セキュリティやSNS利用における倫理などの新設
● 多職種連携能力(IP)の強化
他職種の役割理解にとどまらず、チーム目標の設定や相互尊重、協働実践を含めた独立大項目化
● 専門領域の更新
エビデンスに基づいた実践の徹底、緩和ケア、がん・老年・慢性疼痛・精神障害へのアプローチの明確化
デジタル技術の活用や多職種協働の知識を備えた新卒者が加わることで、現場の業務改善や連携強化を後押しすることが期待されます。
「7割コア+3割自由設計」のもと、科目の柔軟な設計が可能に
カリキュラム全体は、全国共通で学ぶ「コア領域(約7割)」と、各校が独自に設定する「自由設計領域(約3割)」で構成されます。
改訂版ではこの枠組みのもと、科目を組み立てる仕組みがより柔軟になりました。
従来の科目ごとの区分にとらわれず、再編された「10の大項目」から必要な目標を横断的に組み合わせて授業カリキュラムを組み立てられます。
全国一律の質保証を保ちながら、各学校の理念や地域特性に応じた特色ある教育を反映しやすくなった点がポイントです。
「知っているか」から「実際にできるか」を測る評価へ
改訂版では、単に知識を覚えているかではなく、「現場で実際に何ができるか」という学修成果を基盤とする教育(OBE:Outcome-Based Education)が打ち出されました。
学内授業から臨床実習までの一貫した取り組みとして、学修目標の記述が「〜説明できる」「〜実施できる」といった具体的な行動指標に統一されています。
改訂版の指針では、学修段階に応じた具体例として以下のような評価手法の導入が推奨されています。
● 学内授業
筆記試験に加え、実技試験(OSCE)やチェックリストで手技の確実性を評価
● 臨床実習
指導者の監督下で「どこまで業務を任せられるか」を示す指標(EPA)やルーブリックを活用
チェックリストやルーブリックを活用することで、評価のばらつきを防ぎ、指導者と学生が共に達成状況を確認できる仕組みです。
養成校と臨床現場で共有する新基準
今回の改訂は、多職種連携やデジタル活用を取り入れつつ、「現場で実際に何ができるか」に重点を置いた内容になっています。
学内授業から実習まで評価基準が整理されたことで、指導者も学生の到達度や任せられる範囲を判断しやすくなりました。
新しい基準を学校と臨床現場の両方で活用することで、これからの時代に求められる理学療法士の養成につながることが期待されています。
引用・参考
・理学療法教育学会版 理学療法学教育モデル・コア・カリキュラム(令和8年度改訂版)(日本理学療法教育学会)
・理学療法学教育モデル・コア・カリキュラム(2019年版)(日本理学療法士協会)